虹1ポンドの物語 

ちょっと笑って、考えさせられて、楽しくなるような物語書いてます。世界観を大事にしてます。

【第10話】久しぶりの再会

 

 

 

 

今日は元旦。

久しぶりに実家に帰ってきた。戻ってくるのは何年ぶりだろう。大学の時に家を出てから帰ってないな。もう7年くらい経つのかな。時々お母さんとは電話はしてだけど。長くなるから、途中で面倒くさくなって切るようにしてたんだよなあ。

 


「久しぶりに帰らないとね…」

 


ボソっと口にした独り言は生々しく、直ぐには消えずにねっとりとへばりつく感じがして、少し不愉快だった。

 


そういえば弟のタケシはどうしてるだろう、

私に似て少し頑固なところもあるから、変わってないんだろうけど話すのはそれこそ7年ぶりくらいになるだろうか。私と個性の強い母親の影響を多大にうけて育ってきたから、まぁ、女性関係は問題ないだろう。

 


問題は母親だ。

あれは、もうなんなのだろう。

考えるだけでも億劫になるし、本当に私はこの人から産まれてきたのだろうか、と疑いたくなるほどだ。

私が上京して、取り残された弟はさぞ大変だっただろうと想像しなくても分かる。

 

 

 

そう考えているうちに、実家の最寄り駅についた。

駅からはバスで、15分いったところに家がある。

もう暗いし流石にバスでこっそりと帰ろうと思っていた時に、一台の車が目にとまった。

 


とまったというか、とまざるを得なかった。

 


なぜかは知らないが、フロントライトをこちらに点滅してきている。モール信号で点滅してる。

 

 

 

改札から出てきた乗客は不思議そうに、その車に乗っている人を見るように通り過ぎていく。

 


私も、そうしようとした時に、点滅からハイビームに変えて、明らかにこちらに気付いて欲しいと言わんばかり主張してくる。

 


「分かったよ。」

 


助手席に向かうと、母親がこちらを見てニコッりとしていた。

 


「モース信号で、遅いよって伝えなくて良いから。」

 


「あんた、遅いわよお!お母さんとタケシどれだけ待ったと思ってるのよ!」

 


気づかなかったが、よくみるとタケシが後部座席に座っていた。

 


「ほら、タケシ!お姉ちゃんよ!久しぶりに会うんだからケータイいじらないで話したらどうなのよ!」

 


車は実家へと走らせている。

 


「お母さんねぇ、あんたたちのこと心配で心配で、あれよ?夕ご飯食べる時なんか、あんたたちのことを思って手を合わせて頂きますしてるのよ?さすがに、ウチの家はキリスト教じゃないからアーメンとかはしてないけど、この気持ち伝わって欲しいなっておもってるのよ?そりゃあだって、死ぬ気で産んだ我が子だからそう思うのは当然よねぇ?ねぇ、タケシ聞いてるの?どうせパズドラしてるんでしょ?もしくはポケモンでしょ?それも、ポケモンGOの方でしょ?何がGOなのよ。どこに行こうとしてるのよアナタ。移動したってポケモンなんて出てきやしないんだからやめなさい!ポケモンで思い出したけど、お母さん昔はフシギダネに憧れてた時期があって口癖が「不思議だね」って言ってた時があってね、それで四天王の彼が……」

 


「お姉ちゃん、お帰り、久しぶり。」

タケシの声は母親の話を切り裂くように鋭く私の鼓膜に響いた。

 


「久しぶりだねタケシ。最近なにしてるの?」

 


私は後ろを見ないで弟に聞いた。

 


「最近はタイムカプセルとか掘り起こしてたかな」

 


すると、また母親が割り込んでくる。

 


「あら、タイムカプセル良いわね。お母さんも昔校庭の裏庭にみんなで埋めたからしらね。タケシは何を埋めたの?」

 


タケシは少し時間を置いて考えながら言葉を発した。

 

 

 

「青春の思い出を埋めた。」

 


すると

 


「若いわねぇ」

 


と一言、母親が言った。

 

 

 

沈黙が続いた。この15分がとても長く感じた。

 


「お姉ちゃんはどうだったの?」

タケシはポケモンGOをやりながら私に向けて質問をしてきた。

 


母親が続いて

 


「あんた、もう良い歳なんだから早く孫の顔を見せてちょうだい」

 

 

 

と言ってきた。

 


私はしぶしぶ答える。

 

 

 

「うーん、なんか、恋愛とか私向いてないのかも。理想が高いわけじゃないけど、会社の男性とかもこうなんか、大事な部分が欠けてるっていうか……」

 


そこで、ふと、気になったことがあったので、後ろを気にしている母親に質問してみた。

 


「お母さんさ、お父さんと結婚する時ってどうだったの?やっぱり、素直な気持ちとか大事だよね?」

 

 

 

 

 

 

 


ミラー越しにタケシを見ると、ポケモンGOをやめてこちらを見ていた。やはり気になったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

母はしっかりとハンドルを握りしめて、前を向いていた。

 

 

 

 

 

 

 


7秒くらいだろうか。車内に無言の時間が流れた。

その後に、ゆっくりと母は口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「そうねぇ、、決め手はお父さんの「五十嵐」って名字が何となく良かったからかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


通り過ぎてゆく街頭が、いつも以上に眩しくて鬱陶しくて、

 

 

 

 


でも目をやる場所が無かったので、

 

 

 

 

 

 

いつ置いたのか知らないけど母が車内に置いた腰を振るフラダンス人形をじっと見つめるしか他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

おしまい。